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有職文様素材集1ー4 (錦)

重いですが豪華華麗な錦の壁紙    

錦(にしき)
二色以上の色糸で柄を織り出した生地を錦と呼びます。錦には「唐錦」と「大和錦」があります。唐錦は経糸(たていと)で地色を表しますが、大和錦は経糸の色に関係なく、緯糸(ぬきいと・横糸のこと)で地色と柄を織り出します。簡単に言えば、文様が浮き織りになっているのが唐錦、文様も平面になっているのが大和錦と考えればいいでしょう。錦は織るのに特殊な技術を必要とするため、古くから非常に珍重されました。ここで紹介するのは伊勢神宮の御神宝に見られる錦の数々です(昭和4年式年遷宮神宝裂貼屏風より)。
 日本における錦そのものは、『魏志倭人伝』の中で、倭錦や異文雑錦として登場しますから、弥生時代に遡ります。その後、『日本書紀』には、雄略天皇七年に朝鮮半島・百済から錦部(技術者)を招いたと記録があり、このころから本格的な錦織の国産化が始まったことがうかがえます。

伊勢神宮御神宝の錦

桜ちらし錦1 桜ちらし錦2 桜ちらし錦3 赤地桐竹唐草錦 青地桐竹唐草錦
蟹牡丹錦

装束や調度の錦

御襪の錦 小葵・大和錦
宝相華
唐太鼓花形

飛鳥時代〜天平時代の錦

国風文化が興る以前の錦は、日本風というよりも純中華風です。豪華華麗、古いものはシルクロードを通して伝わった、ササン朝ペルシャそのものの生地が正倉院に残っています。やがてこれらが日本の風土の中で洗練されて、有職文様に変容していったのです。正倉院の染織品は8世紀中ごろの染織品コレクションとしては、世界最大の規模を誇るものです。


蜀江錦1 蜀江錦2 蜀江錦3 蜀江錦4
正倉院
鳳凰文錦
正倉院花文暈繝錦
段文錦 正倉院七曜四菱文暈繝錦
法隆寺蜀江錦 七曜太子
太子間道
唐花文錦(正倉院御物)
葡萄唐草文錦
(正倉院御物)
獅子狩猟図文錦
(四天王寺)
聯璧華文錦
(唐招提寺)
双華文錦 花鳥梅花文錦
獅噛文長斑錦
唐花雙鳥文長斑錦

(かなり苦労して作りました。可愛がってやって下さい・笑)
四騎狩猟図文錦
縹地唐草花鳥文
ボーダー:宝相華(正倉院御物・螺鈿背鏡)
ボーダー:宝相華(正倉院御物・縹地唐花文錦)

解説

ここでは装束の地紋として用いられた文様のうち、唐草や錦などをモチーフにしています。
代表的なものについて説明しましょう。

御襪の錦(おんしとうずのにしき)
天皇が即位式に用いる「礼服」装束の際に靴下としてはく「襪」です。紅地に黄色の小型の霰の段、「か」に花菱、蝶形変わり花菱、四つ梅花で構成されたパターンが、萌黄、黄色、淡紅、白、藍などで繰り返されている。
唐太鼓花形(からだいこはながた)
この珍しい異国風の文様の織物は、文様が浮く「浮き織物」と呼ばれる織り方をされています。江戸時代の女帝、後桜町天皇が上皇になられた後、好んでお召しになった小袿という着物の文様です。
蜀江錦(しょっこうにしき)
古代中国、三国時代の「蜀」の国であった地方(四川省)を産地とする錦地です。現在一般に呼ばれる「蜀江錦」は実際には明の時代に始まったと思われます。金糸は用いないものの、その精緻で華麗な文様が古来珍重されてきました。後年に制作された錦でも、この文様を基にしたものが多く、柄そのものも「蜀江錦」と呼ばれます。
法隆寺蜀江錦(ほうりゅうじしょっこうにしき)
法隆寺伝来の赤平地経錦の総称です。法隆寺裂の中では太子間道、獅子狩猟文錦、そしてこの蜀江錦などがありますが、これが上記の一般的「蜀江錦」の原型ともなるものです。ここで紹介したのは「赤地格子連珠文蜀江錦(あかじこうしれんじゅもんしょっこうにしき)」と呼ばれ、当時の代表的なデザインです。
太子間道(たいしかんどう)
法隆寺に伝来する絣錦(かすりにしき)で、飛鳥時代にインド文化が伝来したものと考えられています。聖徳太子所用の裂地との伝説から俗に「太子間道」と呼ばれます。
正倉院花文暈繝錦(しょうそういんかもんうんげんにしき)
正倉院に伝えられている「うんげん錦」です。同系の色彩の濃淡グラデーションで段階的に区分けした縞模様で、お雛様の畳の縁でおなじみです。この錦は、花樹双鳳双羊文様白綾褥(しとね)の縁に用いられています。平安の錦よりも豪華華麗な暈繝錦で、いかにも天平文化を示します。
唐花文錦(からはなもんにしき)
正倉院御物です。主文の丸文と副文の唐草で構成された、もっともポピュラーなペルシャのパターンです。遺物では紫地に黄色で織られています。類例が聖武天皇の一周忌斎会他で用いられており、当時のポピュラーな柄であったことがしのばれます。
葡萄唐草文錦(ぶどうからくさもんにしき)
ペルシャで生まれた葡萄唐草をモチーフとした錦で、紫と金茶色で織り出した華麗な織物です。のちの天皇の色「黄櫨染」を思わせる配色です。これも正倉院御物です。
獅子狩猟文錦(しししゅりょうもんにしき)(四天王寺)
連珠文の中に花樹と4騎の狩猟姿をあしらい、周囲に忍冬唐草文を織り出した豪奢な錦で、法隆寺裂です。この文様はササン朝ペルシャ特有のもので、古代にはるばるとシルクロードを渡って伝わってきた文様です。
聯璧華文錦(れんへきかもんにしき)(唐招提寺)
鑑真和上で有名な唐招提寺に伝わった錦で、この連珠文もやはりササン朝ペルシャに端を発した文様です。唐招提寺の校倉修理の際に、天井裏より発見され、奈良時代の錦であると鑑定された者です。
双華文錦(そうかもんにしき)
正倉院御物である半臂(はんぴ・短袖の胴着)に見られる文様です。楽舞装束と思われる華やかな半臂で、主文と副文が同じようなサイズで構成され、ペルシャ文様が和様化する過渡期の作品と考えられます。
花鳥梅花文錦(かちょうばいかもんにしき)
奈良時代の裂地として遺品の多い文様です。中央の梅花のような主文をめぐって、唐草と可愛い小鳥を配した文様です。
獅噛文長斑錦(しがみもんちょうはんにしき)
 奈良時代の錦で、獅子が口をひらいたように見えるために「獅噛」の名称がつけられたと考えられています。タテ縞に織りし、横に獅噛文を幾段にも降りだした経錦です。織物の地色に2色〜数色を縦に用い、縞目を織出すのを「長斑」といい、この錦はそれにあたります。
唐花雙鳥文長斑錦(からはなそうちょうもんちょうはんにしき)
正倉院御物である聖武天皇ゆかりの御軾(おんしょく・ひじかけ)裂の文様です。上記同様の「長斑錦」です。
縹地唐草花鳥文(はなだじからくさかちょうもん)
正倉院御物で、これは織物の錦ではなく、纐纈染で文様を描き出したものです。立涌を思わせる湾曲連続した草花に水鳥。いかにも西域伝来のモチーフです。